惑乱1

ずぶりずぶり・・と、男のわき腹に尖った薄い鉄板がめり込んでいく。その感触に生気を取り戻し、力がこの手に蘇えるのを知る。ストップモーションの様に、俺の首から男の腕が外れ後ろへよろめくのを追いかけ、今度は俺が乗りかかり “ナイフ”とは名ばかりの鉄板を埋める。
紅い花が男の白衣に咲く。
次第に大きく成長するソレが俺の手をも染める。流石に気味悪くて手を離すと、男がせっかく埋めた鉄板を抜いてしまう。もったいない!そう思ったけど、抜いたことによって面白いことが起こった。
男の体から、紅い血がシュウシュウと噴き出す!
紅く細い糸が噴き上げるソレは、とても綺麗で目が離せない。

「晃・・・。」

呼ばれて振り向くと、知っている筈の二人がいつの間にか後ろに立っていた。
――何故、こんな所に・・・。誰かがここにいるなんて・・・そんなこと考えもしなかった。
二人の名前もすぐには思い出せないほど、俺は、目の前の噴水に魅せられていた。だけど、この部屋と、転がっている男と半裸の俺、それを見ている二人・・・と、いう状況を思い描いてみたら、あまりにも不思議で可笑しくて、笑ってしまった。
――1度笑い始めると、止まらない。
大勢の人間が、この部屋に来て騒ぐ。誰かが俺の肩を掴んで、名前を呼んで揺さぶったけれど、それが誰かなんて思い出せない。頬にビンタをされても、それがまた可笑しい。
俺は、大声で笑ったまま車に乗せられ、何処かへ連れて行かれた。


鉄格子の中へ入れられ、もうあの“噴水”を見られないのを知ると、怒りが湧き上がり、喚かずにいられなくなった。獣のように吠え、鉄格子を叩く俺は、両手を前後に胴へ巻かれた革ベルトに固定されたが、床に這いつくばり、それでも叫んでいた。――誰の言うことも俺の中には入ってこない。俺は怒りに支配され、理性は弾け飛んでしまった。人間の言葉を失った俺には叫ぶしか手段がなく、その為に蹴られても止めることはできない。そんな俺を誰かが“気狂い”と言った言葉だけは残った。
――気狂い・・・。その言葉が小気味よくて、また笑った。

目覚めたのは、ベッドの上。
白い服を着た男たちが俺を縛りつけた。それだけは少し覚えている。
俺は逃れようと暴れ、叫んだけれど、注射や点滴の大量投与でやがてその力を失った。
誰かを呼ぼうとしても、口枷を嵌められているので、言葉にならずただ唸るばかりだ。
天井は、暗い灰色をしているけれど、色とりどりの光が流れてとても綺麗だ。
俺は、いつも一人置かれているけれども、何処か見えない所には人が沢山いるらしくザワザワととても騒音い。そんな時、声らは俺を口汚く罵る。「死ね。」「人殺し。」「誰もお前を顧みない。」と・・・。
俺は、怖くなってここから逃れたいと暴れるのに、体は動かないので獣のように叫んでしまう――。
(どうして俺がこんな目に遭うのか分からない。)



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惑乱 2

うなされて目が醒める。
自分の体が拘束されていないことに気付くのにどれだけの時間がかかったろうか・・・。

――鉄格子・・・。

俺は、やはり裸のまま鉄の檻に手をかけ、“外”を見る。
向かい側もこちらと同じく鉄格子の檻が並んでいる。格子の隙間に顎を乗せて暫くぼんやり眺めていた。
ふと、口を閉じている自分に気付いて、手で顎や頬を触ってみる。
口枷がない!だけど、口の中は、べたべたと不快この上ない。指を入れてねちゃねちゃと絡み付く唾のようなものを取ろうとして、口の粘膜を掻き毟った。――口中に鉄サビの味が広がる。
「・・お・・う・・  お・・」
何の音かと思ったら、この口から出る自分の声だった。それと知ると「ここから出して」言おうとした。でも、「お・・ お・・」という音しか出ない。
――俺は、いつの間に唖者になったのだろう!?

足に熱い液体を感じて、股を見るとペニスから水・・・が、しょぼしょぼと出ている。ああ・・・!止めなくちゃ・・・。そう思ったけれど、方法が分からなくて、手で押さえた。勿論、止まるはずもなく流れ出るに任せるしかなかった。
“外”を2〜3の白い服を着た男達が、台車のようなものを押しながらこちらに歩いてくる。俺の前に止まって、男の一人が「こいつ、小便漏らしてるぜ。」と言った。そうして、今はもう冷たくなってしまった水が“小便”というものかと改めて思い、股間に目をやった。
誰かが檻のどこかを開けて、お椀のスープをくれる。暫くそのまま両手で支えていたが、思いついて少し口に含んでみる。――冷たくて、塩辛い・・・。
周りからは、食い物の匂いがしてくるのに、俺に与えられたのはそれだけだ。別段腹が減っているわけでもないので、ほとんど口にしていない椀を傍らにおいて崩れる様に体を横たえた。人が3人も寝れば一杯になるこの檻は鉄格子の反対側に小さな窓が開いている(そこにも鉄格子)。他には四角く区切られた穴。中には、ホーローの便器のようなものが収まっている。それが何か、理解できないから、すぐ興味を失った。他には何もない。

――そう、布団さえも・・・。

あまりにも何もないので、自分の体を触ってみる。ここに俺の体がある。自分の腕で体を抱き締めてみる。触っていくうちに足の間へ手が進む。それを揉みしだくうち、言い知れぬ悦びが電流のように体を駆け巡る。天井の裸電球を見ているうち意識が遠くなる。


此処が“病院”だというのは、なんとなく分かる。
自分が“気狂い”と呼ばれているのは、知っている。他人からの指示が理解できないのも、知っている。だから、“良くなりたい”とは、全く思わない。自分には“気狂い”が病気の一種だということも意識できない。
自分自身の殻に閉じ篭って自慰に耽るのは、とても気持ちイイ。やめられなくなる。それを誰かに見つかっても気にならない。だけど、それが元で獣に墜とされたと知るのは、ずっと後のことだ。

――俺は、他人の性欲を処理する為の道具として、居る。



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惑乱 3

<この回よりR-18指定になります。SM傾向が強く救われないので、理解のある18歳以上の方のみお進み下さい。>

「・・・あ・・・あ・・・ぅ・・・」
下半身に突き上げる熱い痛みに喘ぐ。

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