波間 5
促されて、いっちんもテーブルに着いた。
俺の前には洋風のおじや。
二人の前にはさっき作っていたらしいチャーハンがサラダと共に並べられている。
いつものように大きな食事エプロンを着せられ、右手をテーブルに乗せる。脇から範行が薬を飲ませようとするから、わざとのように飲み込んだ証拠に口を開けて見せる。
正面にいっちんが座っている。
「・・お・・俺・・・見にきて楽し?・・・」
渡されたスプーンを持ったまま、言いたくないのに自虐的な言葉が出てしまう。
「び・・びょういん・・の・・・オリの中で・・・た・・垂れ流・・・し・・だったの・・・見たかった・・?」
それが今の病院でのことか、前の病院でのことかは自分でも分からない。
え?といっちんと範行が顔を見合わせる。
「お・・・俺・・」
大粒の涙がランチョンマットの上にシミを作る。
もう誰のことも見られない。
「ばっか、今日はちょっと失敗しただけじゃないか。いつもはちゃんと間に合うし。補装具を着けたら歩行器で歩けるだろ?今度は、家の中にも車椅子持ってくるから・・・そうしたら・・な?」
範行が、半分はいっちんに、半分は俺に・・・取り成すように慰めの言葉を吐く。
「・・・こ・・言葉もこんなだし・・・せ・・精神科・・・で・・・や・・やっぱ・・・俺・・・お・・おか・・・おかしいんだ・・・」
この病気は、いつまでも治らない・・・そんな気がする。
だから、もう友だちでいられる訳がない。
制服を着たいっちんとおむつを当てられた自分が同じ場所にいることがそもそも間違いだ。
本当は、来てくれて嬉しかったのに、さっきのショックを受けたような顔が忘れられなくて、もう絶対にダメなんだと思うから、涙が出て止まらなくて顔を覆った。
「ごめん。ボク・・・ビックリしちゃって・・・でも・・・ねぇ、晃? これだけは言わせて。」
いっちんの言葉にただ嫌々と首を振る。
「ボクは、どんなことがあってもキミが好きだし、嫌われたってずっとキミのこと見てるって・・・。昔、中等部の卒業証書を持って行った日に話したの覚えてる?」
あの時は “ 事故 ” で入院してたよね? そう言う。
「晃が精神科に入院してるのはなんとなく知ってたけど、それが何かいけないことことなの?ずっと前、入院した時だって、記憶障害を精神科の先生が診ていたじゃない。そんなの大差ないよ。そんなこと気にするようじゃ、予告したら断られそうだからって、アポ無しで予備校前に寄ったりなんかしないよ。だろ?」
俺の隣に座って肩を抱く。
「ボクは・・・臆病者って言われるかもしれないけど、キミが病院でどんな状態でどんな治療を受け、どんな風に過ごしていたかについて深く知りたいと思っていない。 ―― 勿論、晃が話したいときが来たら、いつでも聞くけどね。つまり、ボクは晃自身が好きなのであって、他の事情がどうでもあんまり気にならないんだ。分かる?」
俺の顔を覗き込み、子どもに言い聞かせるように言う。
なんで、そんなに人がいいんだろう・・・・・・。
俺なんか放っておけばいいのに。
いつの間にか、苦しいばかりだった涙がじんわりと温かいものに変わったことに気付く。
手で顔を拭っていたら、いっちんがポケットから皺くちゃのハンカチを出して再び仕舞おうとするから、笑いたくなる。
昔から何事にもソツのないいっちんだが、何故かいつもハンカチは丸めて皺くちゃにしてしまう。今でも変わっていないんだ・・・。
「・・へ・・・・・・へんな・・奴・・・ばか・・・?・・・」
そう言ったら、範行と2人ぷーっと笑い出した。
「良かった。前のときもそんな風に言ったね。」
いっちんがあんまり嬉しそうに言うから、もう一度言ってやった。
「そ・・・そんなこと言われて喜ぶ・・・なんて・・・ますます・・変だ・・」
2008.07.03 01:06:20 作成
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俺の前には洋風のおじや。
二人の前にはさっき作っていたらしいチャーハンがサラダと共に並べられている。
いつものように大きな食事エプロンを着せられ、右手をテーブルに乗せる。脇から範行が薬を飲ませようとするから、わざとのように飲み込んだ証拠に口を開けて見せる。
正面にいっちんが座っている。
「・・お・・俺・・・見にきて楽し?・・・」
渡されたスプーンを持ったまま、言いたくないのに自虐的な言葉が出てしまう。
「び・・びょういん・・の・・・オリの中で・・・た・・垂れ流・・・し・・だったの・・・見たかった・・?」
それが今の病院でのことか、前の病院でのことかは自分でも分からない。
え?といっちんと範行が顔を見合わせる。
「お・・・俺・・」
大粒の涙がランチョンマットの上にシミを作る。
もう誰のことも見られない。
「ばっか、今日はちょっと失敗しただけじゃないか。いつもはちゃんと間に合うし。補装具を着けたら歩行器で歩けるだろ?今度は、家の中にも車椅子持ってくるから・・・そうしたら・・な?」
範行が、半分はいっちんに、半分は俺に・・・取り成すように慰めの言葉を吐く。
「・・・こ・・言葉もこんなだし・・・せ・・精神科・・・で・・・や・・やっぱ・・・俺・・・お・・おか・・・おかしいんだ・・・」
この病気は、いつまでも治らない・・・そんな気がする。
だから、もう友だちでいられる訳がない。
制服を着たいっちんとおむつを当てられた自分が同じ場所にいることがそもそも間違いだ。
本当は、来てくれて嬉しかったのに、さっきのショックを受けたような顔が忘れられなくて、もう絶対にダメなんだと思うから、涙が出て止まらなくて顔を覆った。
「ごめん。ボク・・・ビックリしちゃって・・・でも・・・ねぇ、晃? これだけは言わせて。」
いっちんの言葉にただ嫌々と首を振る。
「ボクは、どんなことがあってもキミが好きだし、嫌われたってずっとキミのこと見てるって・・・。昔、中等部の卒業証書を持って行った日に話したの覚えてる?」
あの時は “ 事故 ” で入院してたよね? そう言う。
「晃が精神科に入院してるのはなんとなく知ってたけど、それが何かいけないことことなの?ずっと前、入院した時だって、記憶障害を精神科の先生が診ていたじゃない。そんなの大差ないよ。そんなこと気にするようじゃ、予告したら断られそうだからって、アポ無しで予備校前に寄ったりなんかしないよ。だろ?」
俺の隣に座って肩を抱く。
「ボクは・・・臆病者って言われるかもしれないけど、キミが病院でどんな状態でどんな治療を受け、どんな風に過ごしていたかについて深く知りたいと思っていない。 ―― 勿論、晃が話したいときが来たら、いつでも聞くけどね。つまり、ボクは晃自身が好きなのであって、他の事情がどうでもあんまり気にならないんだ。分かる?」
俺の顔を覗き込み、子どもに言い聞かせるように言う。
なんで、そんなに人がいいんだろう・・・・・・。
俺なんか放っておけばいいのに。
いつの間にか、苦しいばかりだった涙がじんわりと温かいものに変わったことに気付く。
手で顔を拭っていたら、いっちんがポケットから皺くちゃのハンカチを出して再び仕舞おうとするから、笑いたくなる。
昔から何事にもソツのないいっちんだが、何故かいつもハンカチは丸めて皺くちゃにしてしまう。今でも変わっていないんだ・・・。
「・・へ・・・・・・へんな・・奴・・・ばか・・・?・・・」
そう言ったら、範行と2人ぷーっと笑い出した。
「良かった。前のときもそんな風に言ったね。」
いっちんがあんまり嬉しそうに言うから、もう一度言ってやった。
「そ・・・そんなこと言われて喜ぶ・・・なんて・・・ますます・・変だ・・」
2008.07.03 01:06:20 作成





