復陽 20(改訂版)

「それで、結局このまま?」
呆れた! いっちんが溜め息を吐く。


引越しから半月以上経つけど、二間続きの和室の片付けはあまり進んでいない。

外は、相変わらず雨が降り続いている。



「だって、捨てようとすると誰かさんが 『勿体無い!』 『 自分の作品を大事にしろ!』 って、待ったを掛けるんだぜ?」
やってらんない …… 溜め息を吐きたいのはこちらの方だ。そんなこと言うなら、範行が自分で好きなように片付けたらいい。
「美術棟に残っていた残骸だって、木村がそのまま引き揚げて来たもんだから、余計にややこしいことになってるし ……。」
もう絶対着ないだろう服までご丁寧に保存してくれたことを俺は感謝するべきなんだろうか ……。

「でも、マスターがそう言いたくなる気持ちは分かるよ。油絵の道具とか、いいヤツなんだろ? それに、ここで捨てちゃったら、晃が絵から離れちゃうんじゃないかって心配なんだよ。」

「だけど、使わなくなって数年経過してるんだから、もうダメになってるだろ? …… なのに、何を考えてるんだろう …… あのオジさんは。」

さっさと処分してしまえばいいのにできないのは、油絵の道具を触ろうとすると、例の 「嘔吐反応」 が出てしまうから。範行の家に入れないのと同じだ。
このことに気付いたのは、1人で住むようになってからだから、無理に触ろうとして 「トイレと仲良し」 になる俺を、範行は見てない。

―― 因果な体だ …… つくづくそう思う。


大袈裟に肩を落として見せると、いっちんはクスッと笑う。
「その言い方、よく中等部の頃してたね。なんだか、久し振りに聞いて可笑しい。」 

だけど、そんな風に言われると、どう反応していいのか分からなくて困る。


「―― いっちんは、今の俺のことどう思ってるの? 昔と随分違ってるんだろ?」
やっぱり、気になる。
こうして落ち着いて話が出来るようになったのは、こちらに帰ってきてからだ。

記憶がなくなって、“ 事件 ” があって、壊れて …… 冷静に数えたら、もう4年も経っている。

今更聞くのはヘンだけど、俺にとっては空白の期間は、みんなと同じ次元にいなかったから、存在しないのと同じくらい空虚な期間だと思っている。

だから、降三にも聞いたし、木村にも聞いてみたい。


「違ってるから、どう? 晃は晃だし。ボクが、昔の方が良かったって言ったら昔の晃に戻るの?」

「…… ……。」
まともに、正対して言うから、緊張して何も言えなくなる。


「大丈夫だよ。ボクは、昔以上に今の君も気に入ってるから。」
にこり …… いつもの笑顔が俺の緊張を和らげる。

「もう何回か言ってるけど、昔と比べるとかおかしいよ。今は今だろ?」

“ 事故 ” の後、「忘れてしまっているなら、もう一度友だちになればいいんだよ。」 そう言って、何も分からなかった俺の傍にいてくれた。

「―― いっちんて、もの凄く前向きだよな ……。」

「そう? ボクは自分の思ったことを言っているだけだよ?」


いっちんは、あの時のまま変わらない …… らしい。 









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