復陽 21(了)

「自分に起こったこととか、されたこと、やってしまったことって、消えないだろ?」

俺は、いつもそんなことを考えてしまう。



前のT精神病院でのことで係争しているのを、俺は最近知らされた。

相手が病院だから、面倒なことも多いらしく、審理は停滞しているそうだ。
いっそ、俺が証言すれば先も見えるのかもしれないが、完璧に壊れていた頃だから記憶が不鮮明だし、範行も、できたら俺をその場に出したくないと考えているらしい。

『でも、お前のことなのに内緒にしておくのもおかしいから、状況だけ話しておくな?』

その話をしても受け止められるだろう …… クリニックの相生医師と宇梶さんの判断が下ったのは、本当につい最近のことらしい ―― それでも、さすがに詳細を話すことは憚れたのか、ごく大まかな事実だけだったけど。

虐待のこと、鶏姦のこと …… 閉鎖された空間の中で、決して許されないことが行われていた ……と。

自分があそこでどんな風だったか、記憶が全く無い訳じゃないから理解は早かった。でも、それを改めて範行の口から触れられるのは、古傷を抉られるようで辛かった。

『こんなこと始めて、お前が傷つくとかいろんなこと言われたけど、オレはお前のことを守りたかったから ……  闘わなきゃいけない事もあるんだって、教えたかったんだ。』

当時のことを思うと、自分のことよりも苦しい …… 範行の言葉は、時々沁み込むように俺の中に入ってくる。
最近の俺は素直じゃないから、範行と会うと何かしら気に入らなくて反発してしまうけど、誰よりも俺のことを考えてくれているのは分かっている …… 口にはしないけど。




「それでなくても、詩画集のこととか、“ 事件 ” の時の事情聴取が今まで保留になっていることとか、やらなきゃいけないことが多すぎて、どうすればいいのか分からない。」

空白だった4年間、停滞していた全てのことが今になって一気に動き出しているかのようだ。
それが、少し怖い。

「それでも、いっちんみたいに前向きにできると思う?」
いつでも俺は不安ばかりだ。


「別に …… ボクだって常に前向きな訳じゃないよ?」
おかしなことを言うね? そんな風に笑う。

「…… ……。」

「ボクには君の問題を解決してあげる力がなくて …… とても頼りなくて歯痒いって思ってる。でも、その代わりいつでも君の傍にいようって決めてるんだ。 木村だって降三だって、口には出さないけどみんなそう思ってるから …… よく覚えておいてね。」
忘れてしまったら、何度でも言ってあげるって。



「…… 。」





「あ、晃。雨止んだよ!」
窓の外を窺って、晴れ晴れとした顔を見せる。

雲の切れ間から光が差して、家の中も明るくなる。
自分は、ここにいることを肯定してもいいのかな …… いっちんの顔を見てそう思う。





2008.12.12 01:21:58 作成





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