群青 9

「あ、降三。もし、買い物とかあったら今のうち行っちゃって。今日のバイト、午後からだから、かなりヒマなんだ。」
晃と一緒に留守番していると言う。

「なんだよ、それ。人を重病人みたいに。降三だって、俺なんか気にしないで買い物でもなんでも好きに行ったらいいじゃんか。」

降三が 「丁度良かった」 なんて言うから、晃は拗ねて見せる。
それでなくても、家族でもない降三が泊り込みで看病に来ているのだ。晃も相当気にしている。

「まぁま。別にいいじゃない。降三だって、心配なく出掛けられるんだし。なんでも使えるものは使った方がお得だよ。それに、脳に腫瘍があるなんて、ボクから見たらもの凄い大病だよ? 文句言わない。」
必ずしも全快での退院ではないことは、いっちんも知っている。
また、今は元気そうに見える晃だが、一人にしておける病状ではないことも。

「今度、いっちんが寝込んだら見舞いに行って、大重病人扱いしてやる ……。」
普段から、滅多に風邪もひかないいっちんに言われたら、晃には反論の余地がない。悔し紛れにそんなことを言うから、降三もいっちんも吹き出してしまう。 

「なんだって、みんなそんなに頑丈なんだ …… 。」
晃が零すから、ますます笑われる。
―― 自分の体の不甲斐無さを他人の所為にしても、情けないばかりだ。




「―― あの、晃? 何してるの?」
「ん …… あぁ、そうか ……。」

両手を床に着き体を捩っていた晃が、いっちんに声を掛けられてやっと1人ではどうにもならないことに気付く。

「いっちん、悪い …… 手 …… 貸してくれる?」
情けない …… そんな顔をして助けを求める。
以前なら、なんでもなく出来ていたことなのに、自分の体が自由にならない。

いっちんも、ベッドや椅子に腰掛けている晃しか知らなかったので、こんなにも立ち上がることが不自由だったと感じたことはなかった。
ぎこちなく晃の体を支え、ゆっくりと立ち上がらせる。

降三は、既に買い物へ出掛けてしまい、家の中にはいっちんと晃しかいない。

たったコレだけのことにも動揺してしまった自分にいっちんは驚いている。
『2人で留守番してるから』 なんて、言うほど簡単ではなかったことにやっと気付く。そして、なんでもない顔をして晃の介護を引き受けた降三の凄さを改めて思う。








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