群青 10

「あー、ヤバかった。でも、間に合って良かった。」
用便を済ませ、ベッドに腰掛けた晃は心底ホッとした …… そんな顔で親友に礼を言う。


「―― 今、痛みを抑えるのにモルヒネの経口薬飲んでるから、副作用で便秘になるんだって。で、それシャレになんない位頑固で、緩下剤服用しなくちゃで、腹ん中わやくちゃなんだよ。」
床から立ち上がるのに手間取って慌てたと笑う。
「しかも、疼痛コントロールするには痛み出してからじゃ遅いから、時間で飲まなくちゃなんだ。」
面倒だよな …… 床頭台の薬入れから選んだ錠剤をいくつか口に含む。

「でも、晃。靴下履かないで寒くないの?」
いつも 「寒い寒い」 と連発しているクセに、素足のままなのが不思議だった。
汲んできた水を手渡し笑って見せるが、心の中では、晃の口からあんまりにもサラッと 「モルヒネ」 などと出るので戸惑っている。
「だって、滑るから。それでなくてもフラつくし。」
いっそ、室内の移動も車椅子を使ったら、ハラハラしなくて済むのに …… そんな皆の気持ちとは裏腹に、晃はどうしても自力歩行したいらしい。

「そうだ、いっちん。今の、範行にはナイショな? こんなこと言ったら 『だから、一人にしておけない』 なんて言うに決まってるんだから。」

留守番くらい、できるっての!

元気なことを言うが、さすがに疲れた顔をしているので、着ていた丹前を脱がせて両足を上げ、横になるのを助ける。

「そんなこと言って …… 倒れるまで我慢するのは、もう勘弁してよ?」
去年もそうだったが、症状が出始めてから一体どの位1人で闘っていたのかと思う。
「―― あんまり大袈裟になると、本気で範行が押し掛けて来そうだから嫌なんだよ。」

晃は、自分なりに今の生活を守ろうとしているらしいが、その方法は間違っている …… 言いたいが、ケンカになりそうなので言葉を選ぶ。

「ねぇ、晃?」
「ん?」
眠ろうとするのか、もぞもぞと布団の中で位置を決めながら返事をする。

「ボクがどうして法科の道に進んだか分かる?」
「…… ……」

「キミの “事件” があって …… 弁護士になろうって、決めたんだ。」
いつも一番近くにいたのに、晃を救うことが出来なかった。
当時の無力感を思うと、今でも胸が押し潰されそうに苦しくなる。
「あの時、弁護士の笈川さんが力になってくれたように、いつかボクもキミの力になりたいって。」
もう1人の親友・木村も、晃が出来ないことを代わりにやろうと写真家の道を歩き出している。


「俺の為とか、言うなよ ……。」 
そういうのが、重い …… 眠そうな声で応える晃。
誰の負担にもなりたくない …… そう思っているのに、頼らざるを得ない状況が耐え難い。

互いを思う気持ちが噛みあわないのは、不幸だ …… 晃は、いつもそう感じている。






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